もくじ
はじめに
今年(2020年)の2月/3月ごろから世間で新型コロナが騒がれだし、2月25日~3月19日の18営業日間に、日経平均は23,387円から6,834円(29%)下落しました。その後は持ち直し、4月17日現在の日経平均は19,897円です(戻し幅は3,344円(20%))。
短期的な動きは市場の様々な思惑で読みきれないものの、日経平均が中長期的には理屈通りの結果に収束すると仮定すれば、日経平均は下がります。
- 直感的な理解
- 実体経済の確認
2.1. グーグルトレンド「倒産」
2.2. 景気ウォッチャー調査
2.3. 国際通貨基金 “World Economic Outlook” - 市場の確認
3.1. バフェット指標
3.2. 指数ベースの日経平均PBR
3.3. 指数ベースの日経平均PER - 予測される底値
- 予測される下落ペース
5.1. 過去事例からの推測
5.2. 期待消失タイミングの予測 - まとめ
直感的な理解
日経平均が20,000円前後というのは、昨年2019年の水準です。日経平均が企業の実績と期待から形作られるとして、新型コロナが騒がれている現在に昨年並みの実績と期待があるでしょうか。
言い換えると、企業の売上/利益(実績)は昨年の同時期と比べて、同程度でしょうか。また、新型コロナがこのまま速やかに退治され、新型コロナ以前と同程度以上の成長ができると期待できるでしょうか。
共にそうとは思えない、というのが直感的な理解です。
実体経済の確認
市場(≒日経平均)と独立に考えて、実体経済の実績と期待はどうなっているのでしょうか。実績については各社の決算発表を待たねばならないものの、実体経済が抱いている期待については、いくつかの指標から推し量ることができます。
ここでは3つの指標を見て、実体経済(期待)は落ち込んでいるということを示したいと思います。
グーグルトレンド「倒産」
グーグルトレンドというツールを使うと、指定した期間での、ある検索キーワードの頻度を見ることができます。グーグルトレンドで「倒産」を検索した結果が、下記のものです。
https://trends.google.co.jp/trends/explore?date=all&geo=JP&q=%E5%80%92%E7%94%A3
2008年後半~2009年のリーマンショックの時期に、「倒産」の検索頻度が著しく上昇していることが見て取れます。そして今年の3月に入り、この数値がまた急上昇を始めています。ここから、実体経済が不安を感じていることが見て取れます。
景気ウォッチャー調査
内閣府のホームページに行くと、毎月発表されている景気ウォッチャー調査を見ることができます。2020年3月の調査結果(4月8日発表)は、下記の通りです。
https://www5.cao.go.jp/keizai3/2020/0408watcher/watcher1.pdf

3月時点で、リーマンショック時を下回る景況感です。ここでも、実体経済が感じている先行き不安が見られます。
国際通貨基金 “World Economic Outlook”
最後に、国際通貨基金(IMF)が出している”World Economic Outlook”(4月6日発表)を見てみます。
https://www.imf.org/en/Publications/WEO/Issues/2020/04/14/weo-april-2020

新型コロナの影響を加味すると、日本の実質GDP成長率は-5.2%と予想されています。実体経済は落ち込むと予想されているということです。
市場の確認
実体経済は先行きに対して期待を持てていないことが分かりました。では、市場は現状をどう見ているのでしょうか。ここでも3つの指標を見て、市場期待はリーマンショック時に比べて遥かに、(不当にも)高いということを示します。
バフェット指標
バフェット指標は、「株式市場の時価総額÷その国のGDP×100」で表される指標です。またここで、下記①~④を仮定します。
①株価の価値は将来に企業が生み出す現金(利益)の現在価値
株価の価値 ∽ 利益
②GDPは実体経済を示し、日本株式会社(=日本企業全体)の利益と近似できる
(日本企業全体の)利益 ≒ GDP(実体経済)
③(日本)株式市場の時価総額は、日本企業の株価の合計
(日本)株式市場の時価総額 ≒ (日本企業全体の)株価の価値
④日経平均は、(日本)株式市場の時価総額と相似関係
日経平均 ∽ (日本)株式市場の時価総額
よって①~④より、
日経平均 ∽ 日本株式市場の時価総額
∽ (日本企業全体の)株価の価値 ∽ (日本企業全体の)利益 ≒ GDP(実体経済)
頭と尾をつなげると、
日経平均 ∽ GDP(実体経済)
つまりここで述べたいことは、理屈の上では、日経平均はGDPに比例連動するべきものであるということです。GDPがほとんど変わらない中で日経平均が2倍になっているのだとしたら、それは実体経済を受けてのものではなく、市場期待によるものであるという主張です。そしてバフェット指標は、その市場期待(割高感)を示しています。
https://nikkeiyosoku.com/buffett/

上記のバフェット指標から読み取れることの一つは、現在の市場期待(割高感)は、(新型コロナが猛威を奮っているにも関わらず)リーマンショックの頃と比べてかなり大きいということです。
日経平均PBR (指数ベース)
また、個別銘柄の選定時によく使われるPBRを見てみると、下記の通りです(なお、日経平均のPBR算出には加重平均ベースと指数ベースの、2つの算出方法があります。日経平均は値嵩株と呼ばれる一部株式の株価が強く反映される仕組みになっており、この価格形成の仕組みを考慮したものが指数ベースです)。
https://indexes.nikkei.co.jp/nkave/archives/data?list=pbr (有料会員登録要)

一般的に基準とされる1倍にはまだ遠く、リーマンショック時と比べても割高です。
日経平均PER (指数ベース)
同じく、PERを見てみると下記の通りです(2009年~2010年のPERが突出しているため、グラフ上は30倍で打ち止めにしてあります)。
https://indexes.nikkei.co.jp/nkave/archives/data?list=per (有料会員登録要)

こちらも一般的な基準の15倍までは、まだ下落余地があります(3月末頃に一度、15倍以下に落ち込んでいますが)。リーマンショック時は、10倍程度にまで落ち込んでいます。
予測される底値
ここまでで、①(日経平均から独立な)実体経済からは将来への期待が見えてこないことと、②(日経平均に従属的な)各種指標からは市場が期待に満ちている(=割高である)ことを確認しました。つまり、見えにくいながらも現在はバブルの中にいると考えています。
市場の期待(楽観)がいずれ実体経済に収束するとして、底値はどの程度のものになるのでしょうか。
例えばグーグルトレンド「倒産」と日経平均の相関を取り、期待の度合いをリーマンショック頃まで落とし込むと、10,000円程度が適正値となります。また、PBR1倍の基準は13,600円ということです。感覚ですが、13,000円程度(30%の安全幅を見て16,900~9,100円)が現状の(あるべき)底値であると考えます。
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL06HFA_W0A300C2000000/
予測される下落ペース
過去事例からの推測
いつ底値を迎えるかの予測は、難しい問題です。底値までの期間として、過去は下記のようなものでした。
- 世界規模/仮想的イベント
– ITバブル崩壊:3年程度
– リーマンショック:5ヶ月程度
– チャイナショック:1-2ヶ月程度 - 地域規模/物理的イベント
– 阪神淡路大震災:6ヶ月程度
– 東日本大震災:1ヶ月未満(7ヶ月程度)
世界規模のイベントだと、半年~数年かかることが多いように見えます。ただし、ここには理屈も根拠もないので、主張としては弱い部類かと思います。
期待消失タイミングの予測
それよりも現実的なのは、市場にはびこっている期待(楽観)が打ち砕かれるのがいつかを予測することです。市場で見られる楽観には、下記のようなものがあると考えています。
- ファンダメンタルズ要素
1.1. 外出自粛等の中でも、実体経済はそこまで落ち込んでいない
1.2. 新型コロナ問題は、1~2ヶ月もあれば解決される
1.3. 新型コロナ問題の解決後、以前と同程度かそれ以上に経済成長する
1.4. 金融政策が景気を救う
1.5. 財政政策が景気を救う - テクニカル要素
2.1. チャートを見ると、既に日経平均は底を打っている
2.2. 市場は常に正しい
2.3. バブルは膨らみ続ける
2.4. 下落幅は、既にリーマンショック級
それぞれに対する応答は、下記の通りです。要点は、緊急事態宣言の解除/延長が議論される4月末~5月始め頃から、期待が崩れ出すだろうということです。底が来るのは、全ての期待が正当に評価されるタイミングなので、新型コロナの第一波が収束するであろう5月~7月頃なのではないかと思います。
1.1. 景気ウォッチャー調査(現状)等を見る限り、また健全に考えて、実体経済が落ち込んでいないはずがない。4月末~5月半の各社の決算発表で結果が分かる。
1.2. 運が良ければ5月6日で緊急事態宣言は解除されるものの、その後も社会的距離の確保等は間違いなく必要になる。国際移動もかなり制限される。またワクチンができるまで、常に感染再爆発のリスクに怯える必要がある。コロナ問題は、そんなすぐには解決されない。4月末に、感染収束の定義が取り沙汰されるようになる。
1.3. 確かに、設備も人員も新型コロナの直接の被害にあっているわけではない。しかし、アフターコロナの世界では社会的距離の確保等を前提としたビジネスモデルを再構築する必要があるにも関わらず、ほとんどの企業はまだ明確な打ち手を示せずにいる。徐々に、倒産企業数が目立ちだす。そもそも五輪が延期されたことを皆、忘れている。この影響もかなり大きいはず。
1.4. 日銀は3月16日にETF買い入れ額を12兆円に倍増すると発表したが、日経平均の下落ペースは全く落ちなかった。また、東証一部の売買高が2兆円超/日なので、日銀が2,000億円を連日買い込んだとしても、単純計算で影響力は変動幅の10%程度。毎日100円程度だけ日経平均を押し上げて、6月頃には(年間目標の)12兆円を使い切る計算。流動性の罠も考えると、金融政策の影響はとても小さい。
1.5. 財政政策ができることは、死に体の企業を延命させることで、これを上向かせることではない。そもそも新型コロナの影響で消費が落ち込んでいる(+消費低迷が長引く)ので、お金をばら撒いても回らない。運が良ければ5月始め頃に、政府が「V字回復フェーズ」の議論を始めるが、新型コロナの再爆発との兼ね合いで調整が難航する。
2.1. 確かに、新型コロナの初期下落幅は大きかった(6,834円/29%)。それでも、リーマンショックの下落率(46%程度)に比べれば、まだ落ちる余地はある。市場心理として既に底打ちしたと断じた人達が買い走る可能性はあるが、期待消失に合わせてこれも収まる。
2.2. 市場が常に正しいと思えば、私の方が何か大きな見落としてをしている可能性はある。IT周りの経済がとんでもない発展をして日本のGDPを救うかもしれないし、アビガンがすべてを解決するかもしれない。しかし、追い打ちで大地震が起こるかもしれないし、米中で戦争が起きるかもしれない、というネガティブな可能性もある。これらの要素が相殺しあうと仮定して、見落としについては考慮しないことにする。
2.3. 現在がバブルだと言うのであれば、これが膨らみ続ける可能性はある。しかし中長期的目線で見れば、バブルは必ず弾ける。利益の産まない実体経済に金を注ぎ込むよりも、他に投資したほうが良いといずれ皆が気付く。
2.4. 2つの下落を比較する際は、その時の日経平均に影響を受ける下落幅よりも、下落率を見る方が適切。そしてその結果は、2.1への応答で述べている通り。また、リーマンショックと現在とでは地合が異なっている。現在はアベノミクスバブルの中での危機なので、下落率はリーマンショックより大きくて然るべき。
まとめ
日経平均は、新型コロナの感染爆発が起きようが起きまいが、5月頃に下げ始めます。底値の目標は、13,000円前後(16,900~9,100円)です。
現在は実体経済と市場期待の乖離が見られ、バブル状態です。新型コロナの感染爆発で将来への期待は大きく縮小して然るべきなのに、それに見合うだけの日経平均下落が見られません。
根拠としてシンプルに、PER/PBRといった割安/割高評価指標と、景気ウォッチャー調査の比較を挙げます。現在の日経平均は割高な状況に関わらず、実体経済を示す景気ウォッチャー調査は不景気(=割安を示唆)を示しています。
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※1:下線の部分は、仮定です。ここの仮定が崩れると、今回の議論の一部または全体が崩れます。
※2:太字の部分は、単に強調です。私が重要だと考えている部分です。
※3:投資は自己責任です。